千歳

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『ヒラヒラヒヒル』感想

・引用あらすじ

『ヒラヒラヒヒル』は架空の大正時代を舞台にしたノベルゲームです。 二人の主人公の視点を通して、「風爛症」と呼ばれる「死んだ人間が蘇る病」と戦う人物たちの物語が描かれます。

 

・風爛症

言ってしまえば認知症統合失調症バセドウ病と超絶酷いアトピーを掛け合わせたような病気で本当に心苦しいのだが、現実の病名を持ち出さず架空の病気を描き切ったことを僕はむしろ評価したい。現実の病気を出す事は何とも言えないえぐみが出るし、もし患者や介護側の方が読んだ時になんらかの齟齬や違和感を感じたらよくないので、その点架空の病気を用いるのは全ての人を対象とできていて良いなと思った。

 

・医者と介護人、ふたつの視点

医者側の向き合い方と介護側の向き合い方のふたつの視点から描いているの凄く良いなと思った。片方の葛藤だけでなく両方の葛藤を描くことで、物語というかテーマに二面性を持たせ深みを出せているなと感じたので。ただもう少しこのふたりが物語内で交わってくれたらもっとエンタメ的面白さも出てきたのかなと思ったけど、これはドキュメンタリー的面白さに注力している気がするのでまあいいかという感じ。

 

・差別と偏見

これがこの物語の主要なテーマだろう。やはりどう考えても異質で怖さがある以上差別され偏見の目に晒されてしまうのだけれども、知識がないから恐れてしまい、共感や同情よりも嫌悪がきてしまうというのにははっとさせられた。僕は統合失調症の身内がいるのだけれど、たまに発症した時は手を付けられない暴れようで怖いが、平常時は少し違和感はあれどとても優しい人で、そんな人が身近にいるからこそ、確かに悪い一面にだけ注視するのは良くないなと強く思えた。なりたくてなってる人なんていないし、だからこそ普通に生まれついた人間は手を差し伸べなければいけないのだと思う。

 

・愛

僕は恋愛をしたことがないからこそ愛を絶対視しているのだが、やはりこの物語も愛だった。僕は認知症の身内が出たらすぐ老人ホームに入れればいいじゃんと思ってしまっていたのだが、介護というのはとんでもない愛によって生まれるもので本当に素晴らしい物だと気づかされた。確かに、本当に苦しい局面もあるだろうし、時には殺してしまいたいと思うこともあるかもしれないけれど、それでも介護を続けられるのってその人への愛でしかないな。バッドエンドで殺してしまう話もあるが、逃げて捨てるのではなく殺すという歪みはあれど愛の結末という感じがして美しいとすら思った。

殺す愛も美しいと書いたけど、介護の末行きついたあのTUREENDは美しすぎて泣いた。まさか瀬戸口の作品で泣くことになるとは思わなかった。マジでこの物語の結末を皆自身の目で見届けて欲しい。

 

・テキスト

重い話をやっているし、沢山の文章が一気に表示されるいつも通りの瀬戸口スタイルなのに、やはり彼のテキストは何故かスラスラ読めて心地いい。この重くて辛い話もすっと心に染み入るし、架空の舞台に架空の病気でありながらも不快感や違和感を持たせず現実の問題に結びつける力量は流石だなと思った。

 

・まとめ

弱者とレッテルを張られてしまう要因は沢山あるけれど、人間みなどこかしら弱いところを抱えているわけだし、人間を愛し、手を差し伸べあい、そうやって繋がりを形成していき前を向いて生きていこうというメッセージを受け取った。この物語は差別や偏見と戦い前を向く為の、優しい物語である。僕は昨日の自分より今日の自分が少しでも優しくなれてたらいいなという青ブタの名言を心に刻んでいるので、こういう現代の繊細なテーマに切り込み読者に思考を促しつつ優しい話で纏め上げるの最高だと思った。

95/100点

 

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